「認知症予防には脳トレが一番」と思っていませんか?
先日、久しぶりに実家へ帰ると、リビングのテーブルにクロスワードと数独の本が3冊も積まれていました。
「最近、人の名前がすぐ出てこなくてね。毎日これを解いてるの」と、父は少し照れくさそうに笑っていました。
頑張っている姿はうれしかったのですが、ふと思ったんです。
「脳のためにできることって、問題集を解くことだけなのかな?」と。
調べてみると、国立長寿医療研究センターが重視しているのは、運動・食事・人との交流・生活習慣病の管理などを「組み合わせる」考え方でした。
今回は、公式の研究成果をもとに、60代・70代から無理なく取り入れたい5つの生活習慣を紹介します。
離れて暮らす親のことが気になるご家族にも、声かけのヒントになればうれしいです。
認知症予防は「ひとつだけ」より組み合わせが大切
国立長寿医療研究センターは、認知症の発生に関わると考えられる要因として、難聴・喫煙・生活習慣病・うつ・活動量の低下・社会的孤立などを挙げています。
そのうえで、定期的な運動、バランスのよい食事、地域活動などへの参加は、認知症のリスクを低くすることが報告されていると説明しています。
そして、これらを組み合わせて取り組むのが効果的とされています。
複数の要素に同時に取り組む方法は「多因子介入」と呼ばれます。
日本では、国立長寿医療研究センターを中心にJ-MINT研究として検証が進められてきました。
J-MINT研究でわかったこと・わかっていないこと
2024年5月に公表されたJ-MINT研究は、軽度認知障害(MCI)のある65〜85歳の531人を対象に、18か月間の取り組みを検証したものです。
研究で組み合わせた主な取り組み
🏃 週1回の運動教室(全78回)
🥗 栄養相談(全15回)
📱 タブレットを使った認知トレーニング
🩺 血圧・血糖など生活習慣病の管理
⌚ 活動量計などを使った日々のセルフチェック
ここで大切なポイントがあります。
参加者全体を比べた主要な評価では、統計的に有意な差は確認されていません。
一方で、運動教室に70%以上参加した人たちでは、認知機能の改善が示されました。
つまり、「取り組めば誰でも必ず防げる」ではなく、「続けられた人には良い変化が見られた」という受け止め方が正確です。
だからこそ、これから紹介する5つの習慣も、「完璧に」より「続けられる形で」取り入れていきましょう。
習慣1|散歩や体操で体を動かす

最初に見直したいのは、毎日の体の動かし方です。
特別な運動器具がなくても、生活に合った動きから始められます。
J-MINT研究で効果が見られたのは、運動教室によく参加できた人でした。
ポイントは運動の強さよりも、無理なく続けられるかどうかです。
暮らしに取り入れるアイデア
☀️ 朝の涼しい時間に近所をひと回り散歩する
🛒 買い物はひとつ先のお店まで歩いて行ってみる
📺 テレビのCMの間に、軽く体を伸ばす
🪑 椅子につかまって、安全に立ち座りを数回
👫 家族や友人と一緒に歩く予定を作る
ひとりだと続かない方は、「誰かと一緒に」が一番の継続のコツかもしれません。
歩きながらおしゃべりすれば、習慣3の「人との交流」も同時にかなえられます。
転倒の心配がある方や、心臓・関節などに持病がある方は、運動量を自己判断で増やさず、主治医に相談してください。
習慣2|「これだけ食べればよい」から卒業する

「脳によい食べ物」と聞くと、特定の食品を毎日食べたくなるかもしれません。
けれども、公式情報が勧めているのは、栄養バランスのよい食事を続けることです。
たとえば、ごはんや麺だけで済ませず、魚・肉・卵・大豆製品などのおかずと野菜を組み合わせること。
年齢とともに食べる量が減ってきた方は、「少しずつ品数を増やす」意識が大切です。
料理が負担なときのひと工夫
🥦 冷凍野菜をストックして、汁物やおかずにぽんと足す
🐟 魚は缶詰や切り身の冷凍品を使えば下ごしらえいらず
🥚 卵・納豆・豆腐など、すぐ食べられるたんぱく源を常備
🍱 疲れた日は、調理済みのおかずや配食サービスに頼ってもOK
体重が減ってきた、食欲がない状態が続くという場合は、栄養不足のサインかもしれません。早めに医療機関に相談しましょう。
糖尿病や腎臓病などで食事制限がある方は、一般的な健康情報より医師・管理栄養士の指示を優先してください。
習慣3|人と話す機会を「予定」に入れる

仕事を退職したり、外出が減ったりすると、気づかないうちに会話の機会が少なくなります。
国立長寿医療研究センターも、社会的孤立や活動量の低下を認知症に関わる要因として挙げています。
とはいえ、毎日大勢の人に会う必要はありません。
あいさつ、趣味の集まり、地域の講座、電話での近況報告など、本人が心地よいと感じる方法でつながりを保つことが大切です。
人付き合いが苦手な方は、「交流のため」と構えなくて大丈夫です。
好きな園芸や手芸、カラオケなど、「好き」を入り口にすると、自然と会話が生まれます。
離れて暮らす家族にもできること
💬 「元気?」だけでなく、最近楽しかったことを聞いてみる
📅 週に一度、決まった曜日に短い電話をする習慣をつくる
📸 孫の写真や近況を送って、返信したくなるきっかけをつくる
🔍 本人の希望を聞いて、地域の講座やサークル情報を一緒に探す
習慣4|血圧・血糖などの健康管理を後回しにしない

認知症と生活習慣病は、別々の話ではありません。
2025年11月に国立長寿医療研究センターが公表したJ-MINT研究の追加解析では、興味深い結果が出ています。
血圧・血糖・脂質の管理が十分でなかったMCIのある高齢者ほど、多因子介入によって認知機能を維持・改善しやすい可能性が示されたのです。
特に、高血圧や高血糖がある人で効果が出やすい傾向がありました。
研究チームは、特定健診(いわゆる健康診断)で測る数値が、効果が出やすい人を見つける手がかりになると考えています。
つまり、毎年の健診結果は、脳の健康を考えるうえでも大切な情報なんです。
ただし「数値を急いで下げれば認知症を防げる」という意味ではありません。薬を自己判断で中止したり、量を変えたりするのは避けてください。
今年、確認しておきたいこと
🏥 健康診断を1年以内に受けたか
📄 血圧・血糖・脂質の結果をそのままにしていないか
💊 薬の飲み忘れや通院の中断がないか
🚭 喫煙している方は、禁煙を主治医に相談してみたか
健診の結果票は、一年分ずつクリアファイルにまとめておくと、受診のときに見せやすくて便利です。
家族が「去年と比べてどうだった?」と一緒に見るだけでも、管理のきっかけになります。
習慣5|聞こえにくさを放置しない

「テレビの音量が大きくなった」「聞き返しが増えた」。
そんな変化は、単に会話が不便になるだけの問題ではないかもしれません。
国立長寿医療研究センターは、難聴を認知症の発生に関わる要因のひとつとして挙げ、対応として補聴器の使用を紹介しています。
聞こえにくいと会話がおっくうになり、外出や人付き合いが減ってしまうことも、心配な点です。
ただし、補聴器を使えば認知症を必ず予防できる、と証明されたわけではありません。
聞こえにくさには、耳あかや耳の病気など別の原因もあるので、まずは耳鼻咽喉科で相談するのが安心です。
家族が声をかけるときは、「聞こえてないでしょ」と責めるより、「最近、会話が聞き取りづらいことはない?」と本人の困りごとを尋ねるほうが、話しやすくなります。
脳トレは意味がない?大切なのは楽しみながら続けること
計算問題やパズル、読書、楽器など、頭を使う活動を楽しむこと自体は、とても良いことです。
J-MINT研究にも、認知トレーニングは組み込まれていました。
ただ、脳トレだけを続ければ認知症を防げる、という十分な根拠はありません。
運動・食事・人との交流・持病の管理と組み合わせて考えるのが現実的です。
たとえば、図書館まで歩いて本を借り、読んだ感想を友人と話す。
こんな日常の楽しみには、運動も、頭を使うことも、人との交流も、自然に含まれています。
父のクロスワードも、「解いた問題を家族に出題してみる」だけで、会話のきっかけに変わります。
「予防のために頑張る」より「楽しいから続けられる」を目指したいですね。
地域版J-MINTプログラムも準備が進んでいます
2025年7月、国立長寿医療研究センターは、J-MINT研究の成果を地域で活かすための「地域版J-MINTプログラム」を発表しました。
約20人のグループで週1回集まり、運動・栄養指導・認知トレーニング・グループワークを組み合わせる内容です。
現時点では、2026〜2027年度に自治体と効果を検証する研究が予定されている段階で、どこでも受けられる状況ではありません。
お住まいの地域の介護予防教室などは、市区町村の窓口や地域包括支援センターで確認してみてください。
物忘れが気になるときは、早めに相談を
年齢とともに、人の名前が出にくくなることはよくあります。
ただ、次のような変化が続く場合は、医療機関への相談を考えてみましょう。
こんな変化があったら相談のサイン
🔁 同じことを何度も尋ねることが増えた
🗺️ 慣れた道や場所で迷うようになった
💰 お金の管理や支払いが急に難しくなった
🏠 料理や家事の段取りなど、日常生活に支障が出てきた
認知症以外にも、体調や薬の影響などで似た症状が出ることがあります。
相談先は、かかりつけ医、もの忘れ外来、地域包括支援センターなどです。
本人を試すような質問を繰り返したり、家族だけで「認知症だ」と決めつけたりしないことも大切です。
また、突然ひどく混乱する、意識がはっきりしないといった急な変化は、いつもの物忘れとして様子を見ず、すぐに医療機関へ相談してください。
今日からできる「小さな一歩」チェックリスト
5つの習慣を、明日から全部完璧に行う必要はありません。
まずは負担なく続けられそうなことを、ひとつだけ選んでみてください。
ひとつ選んでみよう
🚶 いつもより10分長く歩く時間をつくる
🥗 いつもの食事におかずを一品足す
☎️ 友人や家族と話す予定をカレンダーに書く
📄 健診結果や通院予定を確認する
👂 聞こえにくさがないか、家族と話してみる
私はこう思う|まずは「一緒に歩こう」から
調べてみてわかったのは、認知症予防に「これさえやれば大丈夫」という近道はない、ということでした。
でもそれは裏を返せば、毎日の暮らしの中に、できることがたくさんあるということでもあります。
私は次に帰省したら、父のクロスワードに一問だけ挑戦して、そのあと一緒に近所を散歩しようと決めました。
体を動かして、おしゃべりして、ちょっと頭も使う。特別なことじゃなくても、それが今の私にできる「小さな一歩」です。
離れて暮らすご家族の健康づくりや見守りについては、こちらの記事でもまとめています。
👉 【関連記事:「歳のせい」で片付けない。膝痛・腰痛をやわらげる日常の姿勢とセルフケア】
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出典:
国立長寿医療研究センター「認知症の予防」 記事を見る
国立長寿医療研究センター「J-MINT研究」プレスリリース(2024年5月8日公表) 記事を見る
国立長寿医療研究センター「J-MINT研究:血管リスクと多因子介入」プレスリリース(2025年11月13日公表) 記事を見る
国立長寿医療研究センター「地域版J-MINTプログラム」プレスリリース(2025年7月15日公表) 記事を見る
※本記事は2026年10月12日時点の公式情報をもとに作成しています。内容は変更される場合があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。研究結果は認知症の発症予防を保証するものではありません。運動・食事・服薬などは、ご自身の健康状態に応じて医師などの専門職にご相談ください。
